事例・インタビュー
優秀な人材が期間の定めなく活躍していける組織を目指して
【一般財団法人海外産業人材育成協会】
企業紹介
一般財団法人海外産業人材育成協会
事業内容:人材育成事業
従業員数:141名(契約職員・嘱託職員含む)
総務企画部 部長 志村 拓也さん
総務企画部 総務・人事グループ長 金子 真理さん
総務企画部 総務・人事グループ参事役 小柴 基弘さん
馬場 一成 Kazushige Baba
ばば社労士事務所 代表
特定社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引士
本事例の3つのポイント
- 数年スパンで段階を踏みながら多角的に「働き方改革」を推進
- 有期雇用契約職員が「無期雇用への転換」を目指せるための仕組みづくりを実施
- 就業規則の改定により優秀人材の流出防止を図りつつ、採用力の強化にも期待
全職員のライフワークバランス向上に向けて長期的視野で改革を推進
Q.組織について教えてください。
当協会は、人材育成機関として主に開発途上国の産業人材を対象とした研修や専門家派遣などの技術協力を推進しています。
技術研修生の受け入れサポートから研修の企画・実施、研修施設の運営、専門家派遣に係る様々な業務を行うほか、国際交流の促進や地域のグローバル化支援など、日本と海外諸国相互の経済発展を目指して事業活動を行っています。
Q.「働き方改革」に取り組むことになった経緯をお聞かせください。
働き方改革については、実はかなり前から意識していました。その背景には、年齢構成のバランスに歪みがあったことが大きいです。ボリュームゾーンが40〜50代ということもあり、ちょうど育児や介護といったライフステージに変化がある世代が中心となっているため、職員がライフワークバランスを充実させていけるように就業環境を整える必要があったんです。
また、働き方改革を行うことで次世代を担う若手職員の獲得やシニア世代の活躍推進、人材流出防止という観点からも制度改定の必要に迫られていました。とはいえ、一度にすべてを刷新するのは難しいため、数年のスパンで時間をかけて改革していこうという方針で取り組んでいるところです。
Q.今回、東京都の支援事業を利用されたきっかけはなんですか。
働き方改革の一環として、有期雇用契約職員の「無期転換」の仕組みづくりを導入するにあたり利用しました。
当協会では現在23名の契約職員・嘱託職員が活躍しています。これまでは最長4年までという契約期間の定めがありましたが、在籍中に積み重ねてきた経験やスキルを長期的に活かしていっていただくことは、職員にとっても協会にとっても非常に意義があります。
また、若手職員の採用難を補う観点からも早期に改定したいと考えておりました。とはいえ、一般の事業会社とのつながりがあまりなく、同業と呼べる組織も少ないため、他社がどのように改革を進めているのか知るすべがありませんでした。
手探り状態の中、メンバー間でディスカッションを重ねながら改定案の大枠を作ったものの、細かい部分で頭を悩ませることも多く、専門家による支援が必要であるという意見で一致。実は、一昨年の22年度にも東京都の専門家派遣を利用して副業制度の導入、在宅勤務のガイドラインを改定した成功経験があったので、ぜひ今回もお力添えをいただきたいという思いで申し込みました。
有期契約職員の「早期の無期転換申込権」を導入し、優秀な人材の確保につなげる
Q.具体的な支援内容を教えてください。
就業規則の改定に詳しい専門家の馬場先生に5回にわたって訪問いただきました。
当協会メンバーは総務人事グループの管理職と担当者2名が対応。こちらが作った就業規則の改定案に対してご助言をいただきつつ、正規職員との待遇のバランスや矛盾点がないかなどを確認しながら、明確にするべき点や変更した方がよい点などのご指摘をいただきました。
具体的には、有期雇用契約職員全員に公平性が担保されているか、無期転換までのプロセスの明確化、無期転換後の待遇、労務管理上の課題、さらには「有期雇用契約職員の無期転換後のインセンティブは何か」「退職金の取り扱いはどうするのか」「無期転換職員がシニア職となったときの待遇はどのようにするのか」など。クリアにしなければならない問題が山ほどありましたので、労働基準法や先行事例などを踏まえながら一つずつ様々な選択肢をご教示いただきました。
たとえば、人材流出を防ぐ観点から有期雇用契約者の「無期転換申込権」を法定の5年ではなく3年超で申し込めるようにしたこともその一つです。
Q.今回の改革で大変だったことはなんですか。
今回行った改革は、単に「無期転換申込権」を新設すればよいというような簡単なものではなく、まさに“仕組みづくり”と言えるものでしたので、一から十まで全てが大変でした。
白黒はっきりつかないことや、決め手に欠けることも一度や二度ではなく、みんなで頭を抱えながら試行錯誤したものです。それは現場のメンバーだけではなく上層部も同じで、改訂の理由や説明表現をいろいろな角度から追及されました。
その度に馬場先生から、「それならこうしてみては?」と様々な具体方法を提案していただいたおかげで、なんとか乗り越えられたと感じています。
Q.改革後の従業員からの反応についてお聞かせください。
本年度4月から新就業規則がスタートしました。秋から有期雇用契約職員に対して無期転換の希望者を募り、来年度4月から適用となります。
今回の取組の反応については、元々ニーズがあったこともあって多くの職員から好意的に受け入れられています。有期雇用契約職員からは「無期職員を目指せるのは嬉しい」「今までのスキルを活かしてずっと働いていきたい」といった声が聞かれました。
また、有期雇用契約職員を抱える部署からは「5年以上のプロジェクトでも同じメンバーで進めていけるのは大きなメリット」「信頼関係を築いている人とずっと働いていけるのは嬉しい」という声も。昨年度の取組も相まって、組織全体として「働き方改革」が進んでいるという認識が浸透してきたように感じています。
また、総務人事グループとしては、これにより当協会における有期雇用職員の採用力も上がったのではと期待しています。
シニア層の就業環境の整備を中心に、引き続き多角的に改革を進めていく方針
Q.次に取り組みたい「働き方改革」があれば教えてください。
近年の採用難の波は当協会にも押し寄せています。それに伴い正規職員の高齢化も進んでいるので、経験豊富なシニア層を巻き込んだ成長戦略を立てることは、今後の当協会の発展のためにも急務となっています。
その一つとして、現状は60歳定年、65歳までの雇用継続ですが、70歳まで活躍していただけるよう就業確保措置の導入を検討中です。
また、コロナ禍以降、急速に広がった社会のデジタル化に対応できていないシニア層が多いことも懸念点の一つです。
私たちの主事業では、海外の産業人材との面談や研修の実施、それに日本の良さを伝えることも職員一人ひとりが大きな役割を担っていました。それがオンラインとなって、直接彼らと接する機会が減ってしまいました。単にデジタルツールの操作を覚えられないといった技術的なことだけではなく、従来のやり方で培ってきたスキルを発揮できないというジレンマとどう向き合い、いかにしてベテラン職員のモチベーションを高めていけるかが根本的な課題であり、早急に解決すべきだと捉えています。
また、並行して障がい者の働き方についても整備を進めていく方針です。
Q.専門家派遣の利用を検討中の企業へメッセージをお願いします。
外部の方、それも専門家の意見を聞けるというのはそれだけで大きなメリットがあります。馬場先生はとても豊富な経験と知見をお持ちなので、質問や相談に対してすぐにプラスアルファの情報とともに回答をいただき、とても助けられました。
また、ちょっと話が横に逸れますが、働き方改革は通常業務と並行して行うため、どうしても日々の業務が優先されがちでした。外部の方が加わることにより、明確なタスクとして期限が発生することもよかったですね。企業にとってマイナスになることは何もないので、働き方改革が進まずお困りの企業には強くお勧めします。