事例・インタビュー

誰もが“使える”休暇制度のあり方を求めて【株式会社大橋製作所】

企業紹介

株式会社大橋製作所
事業内容:製造業 / 従業員数:90名
代表取締役社長 大橋 一道 さん
総務部 マネージャー 成田 信幸 さん
総務部 大木 舞 さん

担当した専門家

杉山 達郎 Tatsuo Sugiyama
株式会社オフィス ア ライト 代表取締役

社会保険労務士、ISO30414リードコンサルタント、CFPファイナンシャルプランナー

本事例の3つのポイント

  • 働きやすい職場環境の構築を目指して休暇制度全体を見直し
  • 「失効年休積立制度」を導入し有給休暇取得率の底上げを狙う
  • 誕生日休暇を「アニバーサリー休暇」に変更し用途を拡大

創業100年を超える老舗企業が挑む「働き方改革」

Q.事業内容や組織体制について教えてください。

 当社は精密板金加工と、マイクロ・エレクトロニクス実装装置と呼ばれる産業用精密機械の開発・製造・販売を展開している研究開発型のメーカーです。1916(大正5)年の創業以来、自社製品開発のほか受託開発、OEMなど時代のニーズに合わせて様々な製品を生み出してきました。

 近年では、AR・VR関連機器向けの設備など、最先端技術が組み込まれた製品製造を可能にするための設備開発にも取り組んでおります。現在の従業員数は90名。20代から70代まで幅広い年齢層の従業員が活躍しています。

Q.「働き方改革」に取組むことになったきっかけはなんですか。

 社長は就任当時より、「社員にも家族にも選ばれる会社を目指す」という経営方針を掲げていました。社員が働きやすい環境で安心して業務を行えることこそが、企業の更なる成長につながるという考えからです。

 その実現を目指して、2019年頃より総務部が主体となって働きやすい職場づくりを推進。その先駆けとして、2020年に初めて「健康優良企業 銀」認定を取得しました。その翌年には、男女共に育児休業を取得しやすい環境づくりや介護休業制度を整備するなど、段階的に働き方改革を行ってきました。

 そして次に総務部が着目したのは各種休暇制度の取得促進です。具体的には、「失効年休積立制度」の導入。もう1つは、新型コロナウイルス感染症罹患時の対応として策定していた特別休暇の終了にあたり、多くの従業員から不安の声が寄せられていたため、代替えとなる制度設計を開始。これらを2023年度の総務部方針のひとつとして、経営層に提案することになりました。

専門家と共に経営層も納得できる休暇制度を検討

Q.休暇制度の改革にあたり課題だったことや、東京都の支援事業を利用するに至った経緯を教えてください。

 一番の課題は、休暇制度の改革を提案しても経営層の承認を得るのが難しいのではないかという懸念があったことです。なぜかというと、部署によっては業務の属人化が生じており、以前から休みが増える分だけアウトプットが下がる可能性が危惧されていたからです。そのため、属人化という課題を各事業部で解決する取組を推進しつつ、経営層の理解を得やすい休暇制度を構築すること、経営層からの想定質問や模範解答を準備する必要がありました。

 以前、健康優良企業認定を取得した際にも専門家派遣事業の支援を受けていたことから、ぜひ今回もプロのアドバイスをいただきたいと考え、専門家派遣に申し込みました。

Q.専門家とはどのように改革を進めていきましたか。

 2023年5月に申し込み、その翌月には担当の杉山先生との面談がスタートしました。杉山先生から色々と教えていただく中で、意外にも当社の有給休暇の平均取得率は全国平均と概ね同水準だったことが判明。更なる取得率向上を図る施策や、他社事例、法的に問題がないかなどを確認しながら、経営層も納得できるような制度を一緒になって検討していきました。

 そして、コロナ特別休暇は傷病全般に対する「特別傷病休暇」に変更し、失効年休は積み立てて育児・介護など家族のための休暇とする案を作成しました。そして、その内容を経営層に提案したところ、いくつか質問がなされたため、その問いに対する考え方の整理と対応方法について杉山先生と共に検討し、再度、経営会議で提案をしました。

 その結果、「特別傷病休暇」と「失効年休制度」を導入し、既存の誕生日休暇を汎用性の高い「アニバーサリー休暇」に拡充することができました。

Q.改定後の社員からの反応や変化についてお聞かせください。

 新制度がスタートしたばかりなので、まだ大きな反応や変化はありません。新休暇制度についての周知は行っていますが、従業員一人ひとりに浸透するためにはもう少し時間が必要です。今後、社内報などで繰り返し伝えていきたいと考えているところです。

 有給休暇については1年後に取得率の測定を行い、場合によっては計画年休なども視野に入れていきたいと考えています。

 一方、「アニバーサリー休暇」についてはさっそく活用する従業員や、問い合わせもいくつかありました。以前の誕生日休暇は、本人の誕生日の前後1か月で取得しないと消滅してしまいましたが、「アニバーサリー休暇」は誕生日に限らず結婚記念日、配偶者や子どもの誕生日、家庭の行事、恋人とのお付き合い記念日など、言ってしまえばいつでも取得できるため、ずっと利用しやすくなったように感じています。

 また、経営層からも「いい効果が期待できそうだ」という前向きな声をたくさんいただきました。これは、杉山先生と一緒に練りに練った綿密な計画、施策案が功を奏したのだと思います。

社員の高齢化を見据えた実のある「働き方改革」を推進していく

Q.今後の方針や取組みについて教えてください。

 ベテラン層のキャリア採用を積極的に行っていることもあり、今後ますます社員の高齢化が進むと予測しています。そのため、シニア世代も働きやすい職場環境を整えることが重要課題の一つとして捉えています。

 具体的な施策の立案はまだこれからではありますが、定年の引き上げや再雇用制度など引き続き制度面の整備や、パワーアシストスーツの導入など設備面の整備により、多角的に改革を行っていきたいと考えています。

Q.「専門家派遣」の利用を検討中の企業へメッセージをお願いします。

 一人で進めていた時は行き詰ることもありましたが、東京都の専門家派遣事業を活用することで、経営層の理解を得ることができ、働き方改革をまた一段と進めることができました。社内の人に相談するのとはまた違った角度でたくさんの気づきを得られましたし、杉山先生がいつも優しく受け応えをしてくださるのでポジティブな気持ちになれたことも、ここまで取り組めた理由の一つだと思います。

 当初はまだ方針が固まっていなかった部分も少なくありませんでしたが、先生からアドバイスをいただくうちに段々と方向性がまとまり、道が拓けていきました。「まだ具体的には何も決まっていない」という段階の企業様にもぜひお勧めしたいですね。