事例・インタビュー

業界慣習にとらわれない革新的な働き方を実現【turnTOKYO】

企業紹介

turn TOKYO
事業内容:美容業 / 従業員数:2名(代表除く)
代表 安藤 浩⽂さん

担当した専門家

三浦 睦子 Mutsuko Miura
サプナ社会保険労務士法人 特定社員

特定社会保険労務士、第一種衛生管理者、キャリアデベロップメントアドバイザー

本事例の3つのポイント

  • ヘアサロン業界における従来の慣習を取り払い、働きやすいサロンに転換
  • 業界としてはめずらしいフレックスタイム制を導入し残業時間ゼロを実現
  • フレキシブルな雇用体制を用意し、30〜50代の子育て世代も採用ターゲットに設定

オープン直後にコロナ禍となり、経営面・働く環境面を根底から見直し

Q.ヘアサロン「turnTOKYO」の歩みを教えてください。

 当サロンは2019年8月にオープンしました。当初は一般的なヘアサロンと同様に「あのモデルのような髪型になりたい」という“憧れ”を提供するビジネスモデルにて運営。

 ところがオープンからわずか半年後に、いきなり世の中がコロナ禍に突入してしまいました。それまでのような営業を行えなくなり、スタッフたちは自宅待機を余儀なくされました。これからどうなってしまうのだろうという不安でいっぱいでしたね。

 というのも、ヘアサロン業界には街でヘアモデルをスカウトして施術を行い、写真をHPやSNS、集客サイトなどにアップするという独特の文化があるからです。コロナ禍ではモデルを探すことも難しい上に、これらの作業はすべて業務時間外に行うことが業界の慣習でした。美容師の多くは「そういうものだ」と何の疑いもせず時間外労働を行っていましたが、コロナ禍をきっかけに働き方を見つめ直す美容師がたくさんいたようです。当時、当サロンで活躍していたスタッフもそうでした。「もっと休みや残業手当がほしい」という要望が自然と出てくるようになったんです。

 そうは言っても、コロナ禍の経営状況から考えても急に残業手当を支給するのは容易なことではありません。そこで、スタッフの働く環境を改善させるためにも、いっそのことビジネスモデルを転換しようと考え、2024年3月にリブランドオープンすることにしました。

Q.どのようなサロンにリブランディングされたのでしょうか。

 それまでの“憧れ”をデザイン(提供)するビジネスモデルから、ヘッドスパによる頭皮ケアを前提としたヘアサロンに転換しました。『ずっとキレイを叶える』をキャッチコピーとして、大人の女性に対して年齢に応じたヘアケアを提供するビジネスモデルです。私自身がヘッドスパによる頭皮ケアに精通していたため、その技術をサービスとして体系化しました。

 このビジネスモデルであれば、業務時間外にヘアモデルを探して施術をしたり、サイトやSNSで集客業務を頻繁に行ったりする必要がなく本来の業務に専念できるため、スタッフの働き方改革を実現できます。加えて、長期にわたってお客様に寄り添っていくサービスなので、経営の安定性向上にもつながると考えました。

ワークライフバランスを充実させて末永く働いていける体制を構築

Q.専門家派遣を利用したきっかけはなんですか。

 継続的にご利用いただくサロンを作るからには、スタッフ側にとっても腰を据えて長期的に働いていけるサロンでなければならないと考えていました。

 とはいえ私には経営と従業員、法律の三方良しを実現させるための知見を持っていなかったので、専門家の意見を聞きたいと思ったのがきっかけです。たとえば、一定の技術を習得している30〜50代の子育て中の美容師も活躍できるようにするためにはどのような環境を整備すればよいか、よい人材が集まる魅力的な就労環境とは何かなど、他業界を知る専門家の方なら、業界慣習にとらわれないアドバイスをいただけるのではと期待して申し込みました。

Q.具体的にどのような支援を受けましたか。

 担当していただいた専門家の三浦先生に、全4回にわたり訪問いただきました。

 まずは大人の女性をメインターゲットとするヘアサロンに転換するためにも、スタッフはお客様と同年代の30〜50代を中心とするメンバー構成にしたいこと、そのために新規採用にも力を入れていきたいことなど、当サロンがおかれている現状と課題をお伝えしました。一人でリブランディングに取り組んでいた時は変形労働時間制の導入を考えていたのですが、三浦先生から「フレックスタイム制の方が、よりフレキシブルに働けるのではないか」とご提案をいただきました。ヘアサロン業界ではあまり馴染みがないため自分では思いつきませんでしたが、顧客担当制の当サロンなら顧客管理や予約管理をスタッフそれぞれに任せれば実現できることをご教示いただき、フレックスタイム制の導入を決定しました。

 また、フレックスタイム制は1か月間の研修期間を終えた入社2か月目から利用可能とすることや、時間単価を算出するために「年間カレンダー」を作成することなど、具体的な運用方法や計算ルールもご教示いただきました。

 さらに、雇用契約書のリーガルチェックや、求人募集を行うにあたってのペルソナ設定、求人広告の打ち出し方のほか、給与額や年間休日の設定に関しても助言いただきました。

Q.支援を終えた今、どのように変わりましたか。既存スタッフの反応もお聞かせください。

 フレックスタイム制を導入するにあたり、既存スタッフの雇用条件を見直したことにより、給与と休日が増えただけでなく、自分のお客様の予約状況を踏まえながら出社時間や出社日を決められるようになったので、「以前よりもすごく働きやすくなった」と言ってくれています。

 また、時間外のミーティングや清掃を廃止することで残業ゼロを実現。二人のスタッフは出勤前にスポーツジムに行ったり、退勤後に会食したりとプライベートを以前よりも満喫しているようです。

 なお、求人募集については既に20名近い美容師の方から応募をいただいており、手応えを感じているところです。三浦先生に面接での質問の仕方についてもアドバイスいただいたので、引き続き実践していきたいと思います。

スタッフも経営側も。双方にとって幸せになれるサロンを目指して

Q.今後の方針や取組について教えてください。

 これまでの経験上、美容師の主な退職理由は「給与の安さ」「労働時間の長さ」「人間関係」「やりたいことが実現できていない」の4つだと考えています。こうした不平不満が生じないような環境を整えて、スタッフ側も経営側もお互いが幸せになれるようなサロンを作るのが私の目標です。

 今後はパートやアルバイトなどの雇用形態も選べるようにし、出産や育児により美容師としての仕事を諦めざるを得なかった方々も積極的に採用していきたいですね。

 そのためにも、現在のビジネスモデルをしっかり確立させること。また、採用選考は技術力だけではなく人柄も重視しながら慎重に行っていきたいと考えています。

Q.「専門家派遣」の利用を検討中の企業へメッセージをお願いします。

 私自身、はじめは何をどのように変えたらいいのか漠然としており、上手く言語化できない部分も多かったと思います。

 三浦先生がそんな私の想いを汲み取りながら、女性ならではの視点で様々なアイデアを提案していただけてとても助かりました。法律を熟知されている専門家からの意見は安心感がありましたね。

 課題はあるものの、まだ何も解決の糸口がつかめていないという企業様にもお勧めします。